第1章 日本政府が隠す不都合な真実

 2011年、日本の債務残高は対GDP比で200%を超え、イタリアよりもギリシャよりも悪くなっており、日本の財政は破綻寸前だと新聞各社、テレビなどのマスメディアが報道した。では、実際に日本の財政は破綻するのか、破綻するとしたらいつごろ破綻するのだろうか。正直なところ、そんなことは誰にも分からない。しかしながら、私の見解を述べると、「2、3年では破綻しないが、100年、200年後は分からない」ということである。まったく答えになってないじゃないかと言われるのは分かっているが、財政を扱う以上、筆者のスタンスを書かずにはいられないので、苦し紛れにそう答えた。しかし、はっきりと言えることは、このまま赤字垂れ流しの財政運営をしていては良くないということは断言できる。
 
 まずは、日本の財政状況について概観してみよう。図1に、中央政府、地方政府、社会保障基金を合わせた政府債務残高の対GDP比は、2011年は213%と他国と比べても極めて高い。同じく財政破綻の危機にさらされているイタリアよりも高いのである。しかも、イタリアは横ばいである一方、日本は増え続けている。なお、このグラフは、地方債務等も含めて書かれている。中央政府の債務だけでみれば、2011年は、676兆円で、GDP比は141%になる。
 次に、年度毎の政府予算の歳出と税収をみてみよう(図2)。90年度を境にして、歳出は増加傾向にあり、税収は減少傾向にある。それに伴い、公債発行額も増えていっている。概ね、「歳出=税収+公債発行額」となっている。歳出と歳入のグラフは、ワニが口をあけたようにみえる。一九七五年の段階歳出が税収を上回っているが、90年以降の開きが激しい。2000年代中ごろには少なくなった時期もあったが、リーマンショックがおこった2009年に一気に上昇しているのがわかる。このような毎年度の公債が積もり積もって、対GDP比では213%にもなってしまったというわけだ。

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図1 政府債務残高の対GDP(出所:財務省)
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図2 歳出と税収と公債発行額(出所:財務省)


 財務省によれば、平成22年度の予算では、税収・税外収入は48兆円、国債費は21兆円、公債残高は637兆円である。財務省では、これを月収40万円の家計にたとえて、収入のうち17万円が借金の返済に使われ、実際に使えるお金は23万円。しかし、この家の家計費は45万円もあり、新たに37万円の借金をし、それが積もり積もって、借金の残高が6370万円に達するとしている。

表1.平成22年度一般会計 家計にたとえると…

税収・税外収入 48.0兆円 1世帯月収 40万円
一般会計歳出 92.3兆円 必要経費総額 77万円
一般歳出 53.5兆円 家計費 45万円
地方交付税等 17.5兆円 田舎への仕送り 15万円
国債費 20.6兆円 ローン元利払 17万円
公債金収入(借金) 44.3兆円 不足分(借金) 37万円
公債残高 637兆円 ローン残高 6370万円

出所:財務省 日本の財政関係資料(平成22年8月)


 そういう財政状況だから、「これでは財政破綻も寸前だ。だから増税しよう」と財務省は言うのである。このまま借金が増えていけば、子ども、孫世代に借金を残してしまうというわけだ。財務省は、なんて子供・孫思いなのだろうか。
 さて、ここまで見て、日本の財政は相当やばいのだという印象を受ける。そもそも、収入が40万円しかないのに、なぜ45万円も使っているのか。日本では家計は妻が握ることが多いが、こんなに浪費する妻ならば、さっさと離婚だ。では、この予算はいったい誰が作っているのか。最終的には国会で可決されているわけだから、国会議員ということになる。しかし、国会議員が細かいところまで見ることはできないので、大部分は財務省の主計局と言うところが作っている。国会議員ならば、選挙を通じて離婚、つまりやめさせることができるが、財務省の官僚となるとそうはいかない。官僚は身分保障されており、よっぽどのことがないと解雇されることなどない。
 しかし、ちょっと待ってほしい。このたとえば本当にこれで良いのだろうか。よくよく考えると、この家族は、預金や家、土地などは持っていないのであろうか。普通ならば、多かれ少なかれ必ず預貯金があるだろう。そして、家やマンションを持っていることもあるだろう。もし、多額の借金があるならば、まずは、預貯金を崩したり、家やマンションを売って安い賃貸アパートに引っ越したりしてなんとかして借金を減らそうとするだろう。そう、このたとえには、資産についての情報が意図的に隠されているのである。
 実は、債務には資産を引いていないグロスという概念と、資産を引いたネットという概念がある。資産を引かないで見た債務のことを粗債務、資産を引いて見た債務のことを純債務という。日本政府は、諸外国に比べ、資産を持っているので、ネット(純債務)で比較する必要がある。そこで、財務省が出す資料というのが図3だ。データが二〇〇八年までしかなくて恐縮だが、ネットでみれば、債務の対GDP比は97%にまで減少する。しかし、2005年ぐらいまでは、ネットでみればイタリアよりも悪くはない状態だったのが、二〇〇八年では、イタリアよりも純債務の対GDP比は大きくなっている。結局これでも、日本の債務が多いことには変わりはないのだ。

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図3 純債務の対GDP比(出所:IMF)


 しかし、ちょっと待ってほしい。図3の純債務というのは、粗債務から政府の持つ金融資産を引いたものである。実際には政府は金融資産だけではなく、土地や建物などの固定資産も保有しており、これも、先進国のなかではきわめて多い。2011年の秋には、事業仕分けで凍結されたはずだった朝霞の議員宿舎の建設がニュースになった。結局、朝霞の議員宿舎は再凍結され、建設中止が決定された。これは、民主党の事業仕分けが国民向けのパフォーマンスにすぎなかったことを改めて露呈させた。そもそも、事業仕分けには法的拘束力がないので、当初から危惧されていたことである。朝霞の議員宿舎以外でも、事業仕分けで見直しが決定されていても実際には事業がすすめられた例はあるであろう。きちんと国民が監視する必要がある。
 では、建設中止になったら、建設予定地はどうなるのか。建設が中止されたからと言って、土地が民間に売却されたというニュースは聞いていない。何も使われないまま放置されているわけだ。これには二つ問題点がある。朝霞という比較的都心に近い好立地の土地を政府が保有したままであれば、地元に固定資産税として税がおさめられないので、地元としては邪魔なだけだ。そして、もう一つは、もしこれが民間に売却されていれば、民間は政府のように放置するわけにはいかない。土地を利用して何かしらの事業をするだろう。その事業で売上がでれば、民間企業から消費税が支払われるし、利益があれば法人税も支払われる。このように、国が保有したままで有効利用されていなければ、本来入ってくるべき税金が地方にも、国にも入ってこなくなるのである。このような土地はすぐにでも売却するべきである。
 2010年度の政府の賃借対照表によれば、固定資産も含めて、資産は647兆円ある。すると、固定資産も引いた純債務は、310兆円となり、2010年の名目GDPは479兆円であるから、純債務の対GDp比は65%となり、これまた一気に低くなり、アメリカやイギリス(約65%)と同じぐらいにまでなる。


表2.平成22年度一般会計 家計にたとえると…

税収・税外収入 48.0兆円 1世帯月収 40万円
一般会計歳出 92.3兆円 必要経費総額 77万円
一般歳出 53.5兆円 家計費 45万円
地方交付税等 17.5兆円 田舎への仕送り 15万円
国債費 20.6兆円 ローン元利払 17万円
公債金収入(借金) 44.3兆円 不足分(借金) 37万円
公債残高 637兆円 ローン残高 6370万円
これに加えて・・
現金・預金 18.8兆円 預金・現金 188万円
有価証券 91.7兆円 株等の運用財産 3049万円
出資金 58.2兆円
貸付金 155兆円
有形固定資産 185兆円 家・土地 1850万円
資産合計 647兆円 資産合計 6470万円

出所:高橋洋一「財務省が隠す650兆円の国民資産」をもとに著者作成

 したがって、先ほどの月収40万円の家計にたとえると、「収入のうち17万円が借金の返済に使われ、実際に使えるお金は23万円。この家の家計費は45万円もかかり、新たに37万円の借金をしてその場しのぎをして、一見すると、家計は火の車。ただ、現金と預金が188万円もあり、株などの運用財産も3049万円、家や土地などの資産価値も1850万円もあるから、ローンが6370万円あるといっても、当面の資金繰りは大丈夫」というわけだ。

 元財務省の高橋洋一氏によれば、日本は約650兆円の資産があり、そのうち金融資産は500兆円。年金保険料の約200兆円は将来年金を払うために取っておくとしても残りの300兆円は、取りくずことができると指摘している。
資産の売却に関しては、反論があると思う。ここではそれについても言及しよう。その一つに、「確かに、政府には資産はあるが、政府が保有する資産は必要なもので、売却することはできない」というものがある。もちろん、すべてを売却せよと言っているわけではない。必要なものは必要だ。しかし、政府が保有する資産は対GDP比で135%にもなる。アメリカが約20%、イギリスでも約35%程度であることを考えると、日本政府が保有する資産は諸外国と比較して明らかに多い。
 また、政府が保有する金融資産には、JT株や日本郵政株などの民間企業の株も存在する。これらの民間企業の株を政府が持つ必要などない。むしろ、民間企業に政府が出資しているとなれば、政府の市場介入となり、市場の中立性が損なわれる要因の一つとなって望ましくない。さらに、高橋氏は、貸付金や出資金といった部分は官僚の天下り先の法人に支払われるもので、すぐに国民の手に戻すことができると指摘している。
 固定資産についても同様だ。固定資産は、土地や道路なので売れないというかもしれないが、すべて売れといっているわけではない。例えば、前述した朝霞の公務員宿舎の建設予定地だったところなどは、民間に売却できるだろう。私は、一時期、東大の柏キャンパスに通っていたことがあるが、キャンパスの道路を挟んだ隣には空き地がある。この空地は、当初東大の所有物だと思っていたのだが、近づいてみると、財務省の国有地だということが分かった。しかし、有効活用されている気配はなく、草や木があるだけだ。周囲には飲食店や民家もあり民間の需要はあるだろう。このような土地は持っているだけでは何も生み出さず、民間が活用する方が望ましい。このような土地は調べてみればたくさん出てくるだろう。諸外国で日本ほど政府が土地を保有している国はない。
 公務員宿舎についても同様だ。これも公務員宿舎を全廃せよと言っているわけではない。ただ、公務員宿舎だからと言って、国が保有し、国が運営する必要などまったくない。必要なら民間から借り上げればいいのだ。しかも、今の某省の事務次官は目黒の一等地にある公務員宿舎で10万円程度の安い家賃で住んでいるという。事務次官と言えば、各省庁のトップで年収は3000万円にも上る高給である。そもそも外国を見てみれば、普通の民主主義国家には国有国営の公務員宿舎など存在しない。必要だとしても民間から借りればすむ話だ。財政が破綻するというのであれば、まずはこのような資産の売却をするべきであろう。