消費税の本性
最後に、本筋と少しは関係ないけれども、消費税について指摘しておきたい。というのも、消費税について理解している人が少ないと思ったからである。
私が話を聞く限りでは、消費税は我々消費者が納税義務を負っているかのように思っている人が少なくない。しかし、実際はそれは間違いだ。消費税にまつわる大いなる誤解がはびこっているようなので、微力ながらここで消費税について私が理解している範囲で述べたいと思う。当然、間違っている部分もあると思うので、ご指摘願いたい。
さて、消費税の納税義務は消費者ではないことを述べたが、だれが納税義務を負っているのか。それは、事業者である。それも年商1000万円以上の事業者に限られ、資本金1000万円未満の事業者は創業して2年間は消費税を払う義務は免れる。
つまり、我々消費者が、100円の商品を購入する際、消費税と思っている5円をプラスして105円払うわけだが、この5円は必ずしも税金として国または地方に行くわけではないのである。前述したように、その事業者が年商1000万円以上でなければ税金として払う必要はないわけだ。まぁしかし、企業ならば零細企業でも1000万円を超えるのは普通なので、その点は問題はない。それ以上に問題なのは、消費税の滞納額は、様々な税がある中で最も高いのである。滞納額が大きいのだ。
まず、消費税というのは何にかかる税金かというと、企業の売り上げにかかる税金である。「売り上げ」にかかるのである(大事なことなので2回言いました)。ちなみに、法人税は利益にかかる。つまり、法人税の場合、赤字ならば、払うことはない。しかし、消費税の場合、売り上げにかかるので、どれだけ赤字であろうと、消費税は払わなければならない。
法人税を下げて、消費税を上げるということは、利益の出ている企業からとる税を減らし、赤字で苦しむ企業から税をむしりとるということになる。
このことが、消費税の滞納額が大きくなる原因の一つとなっている。つまり、赤字の企業は資金繰りに苦しんでいる。売り上げとして手元にお金が入ったならば、消費税を払う前に、借りているお金を返す方に回してしまうだろう。そして、手元には、消費税を払う余裕があるほどのお金は残らない。結果、滞納する。
そして、よく言われるのが「消費税を価格に転嫁できない」ということである。消費税を価格に転嫁できないとはどういうことかというと、消費税の分だけ、価格を上げることができないという意味である。企業が、自社の利益など考えて、ある商品の価格を100円に設定したとする。そして、消費税として、5円分上乗せし、105円で販売するわけだが、企業によっては、100円では買ってくれるが、105円では買ってくれないので消費税5%といっても、100円のままで売らなければならないことがある。この場合は、消費税を価格に転嫁できていないということになる。たった5円の差といえるかもしれないが、これが企業間の取引ではかなりの量になるので、馬鹿にできない。さらには、下請け企業では、買い手の言う値段で売らざるを得ない場合もある。大企業の方が力が強いのだから、「100円で売ってくれ。105円ではお前のとこからは買わない」と言われたら、そうせざるをえない。そういう場合は、無理に低価格で売らねばならないので苦しい。でも消費税は払わなければならないのだ。
さらに、問題はそれだけではない。消費税は、派遣社員など立場の弱い労働者をはびこらせる原因ともなっている。どういうことか。
まずは、消費税の仕組みについてさらっと説明する。消費税は売り上げにかかるといったが、売り上げの5%を全て、払うわけではない。材料など資本の仕入れにより支払った消費税分は払わなくていいのである。これは、二重、三重と消費税がかかってしまうことを防ぐためである。(これが、企業にとっては事務手続きの負担となってもいるわけだが、最近は会計ソフトの導入により、前よりはましになったようだ。)以上のように、消費税は仕入れ税額の控除が存在する。企業は、何かを売り出す際、人という労働力を必要とする。モノを作る際にも、なにかサービスを提供する際にも人は必要だ。一般に、正社員として雇ったり、アルバイト、パートとして雇う場合は人件費となる。これには、当然だが、消費税はかからない。しかし、派遣社員を利用する場合は別だ。企業は派遣社員に給与を払うのではなく、派遣会社にお金を払う。派遣会社に労働という資本を仕入れているわけである。これには仕入れ税となって、この分の税額は控除される。つまり、企業にとって派遣社員を使う理由の一つは、節税をするためである。
このように、消費税とは一般の消費者が知らない形で弱者を苦しめているのである。「景気に左右されない安定な財源」とはつまり、不景気で苦しんでるときの負担が多くなるということなのである。
なお、ここに書いたことは斎藤貴男「消費税のカラクリ」のダイジェストである。詳しくはこの本を読んでいただきたい。
震災復興
3・11におきた東日本大震災。復興に向けてお金が必要になる。政府は復興のためにも増税をしなければならないという、震災までをも増税の言い訳にした。震災復興を人質に増税しようというわけだ。私は、これを聞いたときに政府は、官僚は、なんて血も涙もない人たちなのだろうと愕然となった。なぜかくも被害が甚大で東北の人だけでなく日本全体も厳しい状況でさらに追い打ちをかけるように増税しようと思うのか。まったく理解ができない。
国民の中にも、「増税をしなければ復興が進まない。復興のためにも増税が必要だ」と思っている人も多いかもしれない。しかし、増税をしなくても財源はある。
金融政策との絡みで考えれば、一番いいのは日銀の直接国債引き受けであろう。直接国債引き受けとは、政府が発行した国債を市場を介さずに日銀が直接買い取ることを言う。これを言うと、法学部や経済学部の人に「法律で禁止されている」からそんなことできないよと言われることがある。その根拠は、財政法第5条だ。
財政法 第五条 すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。
つまり、禁止されているのだけど、〝特別な自由がある場合において〟〝国会の議決を経て〟いれば、日銀の直接国債引き受けはできるのである。ちなみに、3月に議決された平成23年度予算では、30兆円までは日銀の直接国債引き受けを認めていて、12兆円まで使っているので、残り18兆円は日銀に直接引き受けさせることができる。これは直ちに復興財源として利用することができる。
この30兆円と言う枠は、日銀が保有する国債のうち、平成23年度に償還される額であり、日銀が何もしなければ、30兆円分市場から資金を引き上げることになりマネタリーベースが縮小し、金融引き締めになる。したがって、マネタリーベースが拡大しない範囲での30兆円は日銀に直接引き受けさせることができるということが国会で決まったわけである。
これを言うと、また国債を発行して財政が悪化するのではないかと思うかもしれない。実は、日銀の直接国債引き受けは、財政の悪化にはならない。それを説明しよう
日銀が国債を買い取る場合、新たに日本銀行券を発行することで買い取る。新たに紙幣を発行すると、その分だけ日銀の利益になる。これを通貨発行益(シニョレッジ)と言う。日銀は政府の子会社的存在なので、利益が出た場合は、人件費などの経費を除いて政府に渡さなければならない。これを国庫納付金と言う。つまり、日銀が通貨を発行した分だけ政府の財政は潤う。政府の財源は、税金と国債発行によるものだけと思っているかもしれないが、通貨発行益も税外収入として政府の大事な収入源である。
したがって、日銀の直接国債引き受けは財政を悪化させない。むしろ、18兆円のマネタリーベース拡大により、金融緩和となり為替は円安にふれ、東日本大震災後の円高も起こらなかったであろう。しかし、財務省は復興を増税の理由に使うために日銀の直接国債引き受けは行わなかった。
ここまで読むと、何も財務省が日銀に支持しなくても政府が国債を発行して、市場を介して日銀が購入すればよいのではないかと思うかもしれない。実は効果としてはほとんど同じであるが、日銀は言われなければやらないだろう。政治家が日銀にやらせることができるので、復興を迅速に進めたい政治家は日銀の直接国債引き受けを提案していた。自民党の山本幸三議員などは最たる例であろう。
東日本大震災が起こった際、私は、これはもう金融緩和をするしかないだろうと思った。これだけの大災害をもってしても政治家や官僚がチマチマとした財政政策しか行わないほど腐ってはいないと思ったからだ。しかし、思いのほか彼らは腐りきっていた。被災地のことを全く考えていない。復興庁にしてもそうだ。宮城県知事が「復興庁と言うよりもまるで査定庁」と言ってしまうほどである。復興にはいくらかかるかわからない。とにかく、迅速性も大事なので、いちいち査定することなく、ドーンと財源を移譲し、この枠の中で自由に使ってくださいとする。そのうえで、権限も被災地に与え、被災地の人に好きなように復興してもらう。はっきりいって、復興庁が東京にあるのでは、被災地のことがまったく見えないし、被災地ではないのだから、何が必要かなんてわかるわけがない。被災地の人に好き勝手やられたら困るというかもしれないが、中央官庁の役人がやるよりはマシであろう。やはり、被災地のことを痛感している人が復興にあたるべきである。とりあえずは、18兆円も出せるのだから、これをやるべきだ。しかも、しばしば「日銀がお金を刷っても需要がなければ無意味」という人もいるが(無意味でないことは第2章で説明した)、復興と言う需要があるので、大いに意味がある。
ちなみに、マクロ経済政策的には、日銀による直接国債引き受けと政府紙幣の発行は同等である。一時期、財務省内でも政府紙幣が検討されたことがあったが、財務省中興の祖である高橋氏がいなくなり、立ち消えとなった。政府紙幣とはその名の通り、政府が発行する紙幣である。実は、紙幣発行権は政府が持っており、
通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律
第四条 貨幣の製造及び発行の権能は、政府に属する。
とある。
そのほかにも、みんなの党幹事長江田憲司氏によれば、
- 国会議員、公務員の人件費カット 10年 10兆円
- 日本郵政株の売却 10年 8兆円
- JT株の売却 10年 1・8兆円
- 政策投資銀行株の売却 10年 1・3兆円
- 公務員宿舎等国有資産の売却 10年 3.8兆円
- 国債整理基金の剰余金等 単年度 10・8兆円
- 労働保険特別会計雇用勘定の剰余金 単年度 4・2兆円
- 財政投融資特別会計の贈与金 単年度 1兆円
- 原発予算・原発埋蔵金の活用 10年 2兆円
- 民主党のバラマキ予算見直し 10年 35兆円
の計80兆円は増税なしでも調達できるという。私もさすがに全額とは言えないまでも、利用するべきところは利用すべきであろう。特に民間企業の株を持っているとは、これは明らかに市場経済への政府の介入であるので、資本主義社会ではありえない。国有資産も不要なものはさっさと売却するべきである。
以上のように、増税の前にもやるべきことはたくさんある。私は増税には反対派しないが、増税はやるべきことをやってからである。やるべきことをやらずして税率を上げても、経済は良くならないし、税収も増加しないだろう。